妻の体験記【あるあるその9】手術当日②

2022年2月14日

こんにちは。月曜日担当のホーリーです。

前回までのお話はこちらから

そのうち、息子と義父母が連れ立って現れました。

 

やはり私と同じで、皆何かすでに疲労感の隠せない顔をしていました。

 

手術前の妻が控室にやってきて、少しだけ話をしました。

 

駐車場が混んでてね、とか、家で待っている愛犬の朝の様子とか、私からはそんな話しかしなかったと思います。その時の妻は、不安げな様子もなく、私や家族と違ってとっくに腹の据わった穏やかな表情をしていました。

 

後で聞いた話ですが、前の夜はぐっすり眠れたそうです。最初からそうでしたが、大体は本人のほうが至って冷静で、周りが右往左往している、そんな状況ばかりです。

 

1番目の人の手術が始まってから、より緊張と動揺が高まり、次第に無口になっていく自分に気づきながら、取り繕うことも出来ませんでした。

 

妻が去ってからは、ただひたすら置いてある新聞や雑誌のようなものを開いては目を落とし続けました。義父母も息子も、同じような様子だったと思います。それでも最初のうちは他愛のない日常会話を交わしいましたが、徐々に誰も口を開かなくなりました。

 

何を読んでいるのかの実感もなく、文字の羅列を眺めているだけの時間が過ぎていき、1番目の人の施術時間が予定より1時間以上押したことで、疲労感はピークに達していました。しかし妻のことを思うと、何もしていない分際で疲れたなどと感じることすら不謹慎に感じ、自分に少し腹が立ちました。

 

それからまたしばらくの時間が過ぎたところで、ようやく妻の手術が始まるということで、皆で手術室に向かう妻を見送りに行きました。

 

ベッドに横たわり運ばれていく妻にひと言ふた言話し掛け、手術室の中に消えていく姿を目でずっと追った後は、無言で立ち尽くすことしかできませんでした。

 

「何か食べに行きましょう」

 

痺れを切らしたように、義母が皆に言いました。頷き歩きながら、ここに来てようやく、もうじたばたしても仕方がない、無事終わるのを待つしかないと、少しだけ冷静に考える思考に切り替えることができました。

 

病院内の食堂に行き、四人掛けの席に通されると、テーブルに置いてあるランチメニューを真ん中におのおの頼むものを決めました。店員を呼び注文を済ますと、そこでまた話すこともなく、なんとなく無言の時間が続きました。他のテーブルの話を聞くともなく聞きながら、ああ、隣はドクターと研修医のグループだな、とか、あのスーツは恐らく医療機器の営業だな、などと推測しながら、食事が運ばれてくるのを待ちました。

 

著:ホーリー 乳がんの妻をもつ地方公務員

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