妻のがん体験記【あるあるその4】 ~治療中であることを改めて思い知る①~

2021年8月16日

しばらくは元気そのものだった妻に、徐々に変化が表れ始めます。
前回までのお話はこちらから

 

まずは脱毛が本格的に始まりました。しばらくそれらしい兆候もなく、もしかしたら妻には起こらないんじゃないかなどと甘い考えも過っていました。しかしそれを見透かしたかのように、それは突然始まり、みるみるうちに妻から髪を奪っていきました。

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私はそれに対して、大した励ましも気休めも出来ず、せめて自分が動揺を見せてはいけないと、平静を装うくらいのことしか出来ませんでした。

 

それでも、体調自体の変化はまだ然程見られませんでした。しかし間もなくして、追い討ちを掛けるかのようなかたちで様々な症状が出始めます。

 

ダンスの講演があるということで、その日は朝から私の車で会場に向かっていました。まだ初夏だというのに、とても暑かったのを覚えています。妻はすでにウィッグが必須の状態で、普段の外出時はそれに夏用のニット帽的なものを被っていました。

 

 

到着が早かったこともあり、軽く食事を済ませておこうということで、会場近くのファミレスに入りました。食事が運ばれてきて、食べ始めてしばらく経った頃、手にしていたフォークを置いて彼女が呟きました。

 

「味がしない」

 

最初、味が薄いという意味かと思い、塩気がないの?などと聞き返しました。しかしそうではなく、なんの味もしないという、そういう意味だったようで。

 

「えっ、味がないの?」

 

理解できず、ほぼオウム返しで聞いてしまいました。

 

「うん」

 

「変なら、作り直させようか」

 

「いや、いい」

 

食べることが好きな人ですから、さぞショックだったことでしょう。しかし、自分に起こっている変化に、彼女自身も理解が追い付いていなかったんだと思います。結局その時は、料理にあまり手をつけられずに終わってしまいました。

 

会場に着き、リハーサルに入るということで一旦そこで別れ、私はコインパーキングに停めた車の中でしばらく待機していました。本当にその日は暑く、窓を開けただけではとても耐えられず、何回か車のエンジンを掛けてはエアコンの冷風で熱を引かせるということを繰り返していました。そんなことをしながら、この炎天下の中で踊るという妻のことが心配にはなりましたが、あとで冷たいものでも差し入れしよう、かき氷でも食べさせるか、などとしか考えていませんでした。

 

講演が始まり、出番を迎えた彼女が登場しました。

 

いつも通りいきいきと、とても楽しそうに踊っていました。

 

しかしその後がいつもと違いました。車に戻ったあと、水分を採らせたもののほとんど動けないくらいに消耗していました。相当な無理をしていたのだと、ようやくそこで気付きました。

 

(②に続く)

 

著:ホーリー  地方公務員

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