妻のがん体験記【あるあるその4の②】~治療中であることを改めて知る②
2021年8月30日
動けなくなった彼女を家まで連れ帰り、そのまま横にならせたものの、その日は全く起き上がることもできませんでした。
それだけではなく、その後体力はみるみる衰えていき、段々と無理が効かなくなっていきました。体力だけではなく、抗がん剤の副作用がはっきりと表れ始め、その最も重い症状が『味覚障害』と『手足の痺れ』でした。
味覚障害は、その講演の日のファミレスですでに起こっていましたが、その時には味付けの問題ぐらいに解釈していました。しかしその後、口にするものがことごとく味がしない、または苦みだけ強く感じる等の症状を訴えるようになりました。
しょっぱい、甘いはほぼ分からないようで、食べ物に異常な量の調味料を掛けたりしていました。それでも感じる味は変わらず、それは相当なストレスになっていました。食事の楽しみを奪われるということは、やはり人間として、もっと大袈裟に言えば生き物としての楽しみを奪われることなわけですから。
うまみは分からないのに、苦みや渋みは強く感じるらしく、例えば煮物などを食べたとすると、大根のえぐみ、苦みなどだけはっきり舌に伝わるらしく、とても嫌な顔をしていました。その他の食材、主にきゅうりや根菜、葉物などの野菜の苦みが強く感じられるようで、しばらくはサラダを口にすることもしんどそうでした。
味はないが食感は伝わるわけで、これがまた違和感が凄く本人にとっては辛かったようです。味覚障害が消えてからしばらくして、何が一番気持ち悪かったかを聞いたことがあるのですが、ダントツでカレーライスだそうです。
あのルーの食感のみが伝わってくるわけで、香辛料の香りも複雑な旨味も何もないそれは、例えるならプレーンヨーグルトをご飯にかけて食べている、そんな感覚だそうです。
あと、妻はチョコレートが大好物なのですが、そのチョコレートも味が分からなくなったことが非常にショックだったと言っていました。香りも甘さもない状態のチョコは、そのなめらかな食感がとても気持ち悪く、それがトラウマになって味覚障害が治った後もしばらくチョコレートを口にする気になれなかったそうです。
それでも、銀だこのたこ焼きは味が分かったとか(主にソースの味)、フードコートでたまたま食べたラーメンはおいしいと感じたとか、へこたれずにいろいろ試しては発見していた姿には、頭が下がりました。副作用にやられるだけではなく、その中で折り合いのつけ方を探る。こういうところに生き様が現れるものだなあと、横で見ていて感じていました。
著:ホーリー
乳がんの妻を持つ地方公務員